2014年以降のトレンドを作るか?
プランタン銀座、阪急メンズ東京のコラボ福袋
福袋商戦の序盤をリードしたのは、今年も王者三越だった。マスコミ各社は、三越が提示した「体験型」というその広報戦略に乗せられた。
松屋の「度肝を抜く」が健闘すると思ったが、短絡的に「体験型が充実」、「体験型がトレンド」で記事や番組構成された感が強い。
単純にまとまる方をマスコミは選んでしまったようだ。
だが、福袋商戦後半戦、プランタン銀座と阪急メンズ東京が大胆な展開を見せた。「デパコン」をコンセプトにしたコラボ福袋である。
異なる形態の百貨店が行うコラボ、そして「デパコン」、どのような話題を振りまいてくれるのだろうか。
コラボ福袋は既に存在しているが……
コラボ福袋は既に存在している。
2012年新春にも、池袋の百貨店と駅ビル四店舗が地域活性を目的に、コラボ福袋を販売した実績がある。なにもプランタン銀座と阪急メンズ東京のそれが初めてではない。
だが、地域活性という目的はあったのだが、アピールできるようなコンセプトがなかった。2〜3のネット系メディアが採りあげたくらいで、大して注目されることはなかったと記憶している。そのコラボ福袋自体、お得感は十分にあった。だが、四店舗が合同して出す意味が、そしてなぜ池袋なのかが伝わらなかった。
今回のコラボ福袋であるが、客層が全く異なる百貨店同士というのに興味がひかれる。プランタン銀座は働く20〜30代の女性のためのデパートである。阪急メンズ東京は、名前の通り男のデパートだ。
その二つの店舗が売り出すのが、ファッション系の福袋である。プランタン銀座が女性用福袋(サイズはMのみ)、阪急メンズ東京が男性用(サイズはMとLの2種類)、おのおの計60個の発売となる。このファッション系の福袋に、2月6日に行われるデパコン(街コンのデパート版)の参加券が含まれている。
はやりの街コンに出掛けるときに着ていくをテーマにした衣料と、街コンの体験型が合体した福袋と考えてもらえばわかりやすいだろう。
コラボの可能性を示した福袋
このコラボ福袋は、ネット系メディアなどでは、残念なことに「合コン」のみが注目されてしまっている。だが、この福袋は、そんな色物的なものではない。今後の福袋の流れを形成していく上で、重要な事項をいくつか含んでいると考える。
第一のポイントは、コラボの可能性を示したことである。
福袋のお披露目会の取材に行く目的は、どのくらい取材を集められたのか、どの商品にマスコミが群がるのかということである。
個々の商品については、受付で渡される資料に目を通せば十分である。乱暴な言い方になるが、資料を読んで気になった商品があれば、メールや電話で問い合わせれば事足りる。だが、マスコミ各社がどういう反応を示すかは、現場に行かないとわからない。
お披露目会場は露骨だ。魅力のある福袋にはカメラが群がる。魅力のない福袋には寄りつきさえしない。それを体感するために、お披露目会場に足を運ぶ。テレビ局は何に目を向けるのか、新聞社は何を取材するのか、雑誌はどういう福袋に興味を示すのか、現場でしかわからない。
プランタン銀座と阪急メンズ東京のコラボ福袋には、テレビカメラも記者ライターも集まった。デジカメのシャッター音も鳴り響いた。
プランタン銀座側が社長、阪急メンズ東京側が店長が、商品についての話をするなど、かなりのサービスぶりであった。しかし、それを差し引いても、その注目度は印象的であった。囲みの会見終了後も、各テレビ局のカメラは、商品を撮影するために回り続けていた。
コラボ福袋の可能性と魅力は、取材陣の数と行動が如実に物語ってくれた。
男性ファッション系福袋の可能性の提示
二つ目のポイントは、男性ファッション系福袋の可能性の提示した点である。
福袋の花形と言えば、女性用衣料系福袋だ。体験型がどうのこうのマスコミが言っても、いかんせん数が少なすぎる。1店舗あたり数万から十万袋販売される福袋にあって、体験型福袋は5〜20個程度しか発売されない。価格帯も簡単に手が出るものばかりではない。女性用衣料系福袋は初売り当日、百貨店の店内を鮮やかに彩る。圧倒的存在感だ。
一方、同じ衣料系でも、男性向け福袋は極めて地味だ。披露目会でも展示されることは展示されている。だが、ワイシャツとネクタイのセットであったり、靴下の詰め合わせであったりと、実用的だし、お得感もたっぷりなのだが、いかんせん地味すぎる。テレビの画面も、雑誌の紙面にも映えるものではない。
誤解のないように行って奥が、紳士衣料系の福袋はすごくおすすめと個人的には考えている。朝や夕方の番組で何回か紹介したこともある。だが、ほとんどのテレビカメラや記者・ライターはスルーしてしまう。
メンズの場合、ファッション系の福袋も、マスコミに取り上げられる機会はあまりない。お披露目会等で、百貨店が積極的な展開をしないこともある。福袋が鉄板コンテンツになっている朝、昼、午後のワイドショー、そして夕方のニュースが放映される時間帯、メンズファッション系の福袋を購入する層が、マッチングしないこともある。その時間帯は通勤、もしくはお仕事中である。
だが、阪急メンズ東京が発売するメンズ系の福袋はファッション系である。この福袋の前に、カメラが群がったのである。メディアに見放されてきた感の強い男性系ファッション福袋が日の目を見ることになったのである。
発売される福袋の種類は以上に多い。大きな百貨店になると、1000種類、1500種類といった福袋が発売される。どこかで露出をしなければ、その存在を知ってもらうことはできない。
現状では、男性系ファッション福袋というよりも、合コン福袋と捕らえられている。だが、今は露出度が優先される時期である。男性系ファッション福袋の露出が高まることで、関心が高まれば、さらに魅力的な福袋が開発されることになるからだ。
体験型福袋へのアンチテーゼ
第三のポイントは、体験型福袋へ対しての、アンチテーゼである。
体験型福袋の報道に対して、常々疑問に思っていたことがある。どうしてマスコミは、販売個数が極端に少ない体験型福袋をあたかもトレンドのように採りあげるのかである。その傾向は、自分が知る限り10年も前から続いている。
大きな店舗では、数万から十万の福袋が販売される。しかし体験型の福袋と言えば、そのうちの数個jから十数個だ。何千袋に一つの存在、それが体験型福袋の実体である。
だが、なぜこれがアンチテーゼになるのか? それは販売個数である。このコラボ福袋、プランタン銀座、阪急メンズ東京でそれぞれ60個の販売となる。数的にはまだまだ十分とは言えないかもしれない。だが、ほかの百貨店の体験型に比べると多い。プランタン銀座、阪急メンズ東京とも、福袋の総販売個数を分母に、このコラボ系福袋を載せると、大型店舗の体験型に比べて、分母の○は確実に一つ少なくなる。
お披露目会場で「手に入る体験型」のキーワードは聞かれなかった。だが、手に入る、入らないは、購入者にとっては切実な問題である。内容の奇抜さ、マスコミが単に番組や紙面にしやすいだけの理由で露出する手に入らない体験型福袋は、ほとんどの消費者にとって無意味な存在である。
プランタン銀座、阪急メンズ東京のコラボ福袋に数が少ないと声が上がったとき、体験型福袋の数に対して、消費者の意識を向けることに成功したと言える。
これがきっかけとなって、消費者の手に入る体験型福袋という新しい流れが形成されることを切に望む。
文・恩田ひさとし
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